Column

病院長コラム

この夏のリアル

 焼けるような。と言ってもよいような猛烈な暑さが続き、 そうかと思うと記録的な豪雨が各地を襲っています。私が子どもの頃は 30 度を超えるだけでも、今日は 30 度もあるのかと嘆いていましたが、今や 40 度超えもたびたびある程の時代となりました。 「地球温暖化」という言葉が常識になってはいるものの、それを確かな形で実感する毎日ではないでしょうか。 「灼熱の 地に寝ころびて 空青し」(水原秋桜子 1892-1981) )という俳句がありますが、今やこの暑さの中で地に寝ころんでその風情を楽しむようなことなど、1 分たりともできないでしょう。

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が示す「このまま温暖化対策をしなかった場合の最悪のシナリオ」(AR5:RCP8.5 またはAR6:SSP5-8.5 報告)やその他世界経済フォーラムなどの公的機関の報告によると、2100 年にかけて地球の平均気温は約 4.4 ℃上昇し、海面は最大 1 m 以上上昇すると予測され、2050 年の時点までに、暑さが直接の原因により1450 万人が死亡、12.5 兆ドルの経済損失を被り、農業収量は主要穀物で 12 割規模の減少が見込まれ、毎年 3 億人が洪水に見舞われ、アジアだけでも 200 万人が海面上昇によって移住を余儀なくされるとしています。気象庁は、日本では同じ条件下で、1 日降水量100 mm 以上の日が約1.4 倍に増加、200 mm 以上の日が約2.3 倍に増加、梅雨の極端豪雨頻度は、現在の1.5 倍以上になると予測しています。

 東京都北区はこのRCP8.5 条件下での北区周辺における気候の将来予測を行っています。それによると、 1951-2010 年の過去平均に比べて、 2040 年までには、最低気温、平均気温、最高気温は通年で 1.6℃~2.6℃の気温上昇、真夏日日数は年間 63.4 日と約 1.4 倍に、熱帯夜は年間 44.0 日と約2倍に増加、確率降水量(ある期間に1度発生すると考えられる降水量)は、30 年に1度の豪雨は、過去の約 78mm/時間に対し、約 95mm/時間に増大すると見込んでいます。

 気候温暖化は、単に熱中症患者の増加だけでなく、農業、森林・林業、水産業、水環境・水資源、自然生態系、自然災害、健康、産業・経済活動、国民生活・都市生活すべてにわたって甚大な影響が確実に見られると政府の各機関から警鐘が鳴らされており、二酸化炭素排出量の抑制だけでなく、あらゆる防御策を講じていかねばなりません。

 ちなみに、一部の学者により、地球温暖化は確かに現在認められるがそれは二酸化炭素排出量の増加(産業革命前に比較して現在 1.5 倍)が原因ではないと論じられています。約45 千年前(オルドビス紀末)には、大気中の二酸化炭素濃度が現在の 20 倍だったにもかかわらず地球は逆に氷河期だったことがその論拠です。さらに太陽活動の変化により、地球はむしろ冷却化していくということすら予想もしています。しかも冷却化の方が、温暖化よりももっと深刻な影響がでると警告もしています。

 それはともかくとして、現在、これまでの通年平均と比べて明らかに暑くなっている中、当面どのような暑さ対策を講じるかを十二分に考えなければならないことは事実です。

 医療機関は、その中である意味最後の砦であることを強く自覚すべきと考えております。当院では、熱中症や夏に多いとされる循環器疾患や急性胆嚢炎など、地域の皆様の緊急的事態に最大限対応できるように救急医療や外科的医療の体制を整えるよう日々努力しております。また 1 階の憩いの広場では、無料の水の配給とともに一時でも涼んでいただけるようなスペースを用意いたしており、地域の皆様が気兼ねなく立ち寄れる場所となればと思っております。

 皆様におかれましては、引き続き暑さ対策を万全にし、健やかな夏を過ごされますように心より祈念いたしております。