「薫風」という言葉があります。
新緑の香りを運ぶ、五月の爽やかな風を意味する美しい季語です。
しかし昨今その“薫風”をゆっくり味わう間もなく、GW が終わったばかりというのに、すでに盛夏を思わせる陽射しに驚かされます。
気象庁でも、今年の夏は昨年以上に高温となる可能性が指摘されており、すでに春先から“長い夏”の始まりを感じておられる方も多いのではないでしょうか。
さらに、風を感じたとしても、いつもよりは荒く強い風であることが多くなりました。地球温暖化は単に平均気温の上昇だけでなく、各地の天候をより不安定にさせていると言われていて、近接地域の気圧差がいつも以上に激しいためにその間を流れる風も荒くなるとされています。
人間は古来、暑さとともに生きてきました。文明の発展とは「暑さから身を守る工夫の歴史」であったと言えるかもしれません。日本では、すだれ、打ち水、縁側、深い軒、風鈴など、“風を通し暑さを和らげる文化”が育まれてきました。つまり、人類は単に暑さに耐えてきたのではなく、「暑さの中で、どう快適に、どう穏やかに生きるか」を知恵として積み重ねてきたわけです。
一方で現代は、空調技術によって一年中快適な温度が得られるようになりました。しかし、その便利さの陰で、私たちは「暑さへの適応力」や、「互いに声を掛け合って夏を乗り切る地域のつながり」を少しずつ失ってきたのかもしれません。
特に高齢の方では、暑さを感じにくくなったり、のどの渇きを自覚しにくくなったりすることがあります。また、独居の方では、エアコンを使うこと自体を遠慮されたり、「周囲に迷惑をかけたくない」という思いから、不調を我慢してしまうことも少なくありません。熱中症とは、単に気温の問題だけではなく、「孤立」や「遠慮」といった、現代社会のあり方とも深く関係しているように思われます。
病院という場所は、病気になった時だけ来る場所ではありません。地域の方々が安心して立ち寄り、少し休み、誰かと顔を合わせ、必要な時には助けを求められる――そうした“地域の居場所”としての役割も大切ではないかと私たちは考えています。そのため当院では、病院の 1 階にウォーターサーバーを設置し、「涼みどころ・クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)」として地域の皆さまにご利用いただけるようにいたしました。ほんのひと時でも涼しい場所で休み、水分を摂ることが、体を守る大きな助けになります。昔の日本には、実際「縁側でひと休み」という文化がありました。暑い日、通りがかった人が少し腰を下ろし、お茶を飲み、風を感じる――そんな光景です。
私たちの病院も、この地域にとっての“小さな縁側”のような存在にもなれればと思っています。