外科手術はこの40年間で飛躍的に進歩しています。その代表が腹腔鏡下手術です。腹腔鏡下手術は1985年にドイツの外科医が初めて胆嚢摘出に成功したことに始まりました。日本では1990年に胆嚢摘出の第1例目が行われ、その後は全国各地に急速に普及し、現在は胆石症に対する手術法の第1選択になっています。急速な普及の理由として挙げられることは、やはり腹腔鏡下手術が低侵襲であることです。腹腔鏡下手術は大きな傷での開腹手術に比べ、傷が小さいため全身への負担や術後の傷の痛みが少なく済みます。そのため、入院期間の短縮、さらには社会復帰までの期間が短くなるというメリットがあります。
腹腔鏡下手術は手術器具の進歩とともに、手術術式も検討され適応疾患も広がりました。腹腔鏡下手術が始まって以来、単孔式腹腔鏡下手術はその腹腔鏡下手術がさらに進化した新たな術式と言えます。
以下が、単孔式腹腔鏡手術の予想される利点と欠点です。
(利点) ・整容性 ・痛みのさらなる軽減 ・術後のさらなる早期回復
(欠点) ・手術時間の延長 ・難易度 ・期待に沿えない臍部の変形

単孔式腹腔鏡で虫垂切除をした1年後
従来の腹腔鏡下による手術では、腹腔鏡などの器具を腹腔内に挿入する際、腹部に3~5か所の孔(傷)をあけて行いますが、単孔式は臍(へそ)に2~3cmの孔を1か所だけあけて行う術式です。
1か所から腹腔鏡を含めた3本の器具を挿入するのです。歴史的には2007年4月にアメリカの外科医Curcilloにより世界初の単孔式による胆嚢摘出術が行われ、2008年12月に日本初の同手術が行われました。先端が曲がる器具等も開発され、Single Incision Laparoscopic Surgery(SILS)など様々な名称で呼ばれています。
単孔式腹腔鏡手術を行う医療機関は2010年頃に急速に普及しましたが、ある程度以上の技術と経験を要するため2015年頃には一時衰退傾向にありました。
しかし、胆嚢摘出術と虫垂切除術についてはメリットが高く、適応症例を丁寧に検討し当院でも積極的に行っております。

開腹手術(術創約10~15cm)と比較すると従来の腹腔鏡下手術もはるかに傷が短い(計4~6㎝)ですが、このように単孔式腹腔鏡手術はさらに短く(2~3㎝)、しかも臍を使用するのでほとんど目立たなくなります。(一方で、臍の小さい患者さんは、2~3cmの傷、3本の器具を入れることによる皮膚の圧挫等で臍の形が変わることもあります。)
病院施設により少しずつ適応手術が拡大されておりますが、当院では胆嚢摘出術と虫垂切除術を適応としております。
胆嚢摘出術:胆石発作や慢性胆嚢炎 (高度胆嚢炎や上腹部手術の経験がない)
虫垂切除術:繰り返す軽度の虫垂炎(高度の炎症や開腹手術の経験がない)
上記のように適応に制限があります。
また、手術中の判断によりやむなく創の追加、あるいは開腹術への移行を余儀なくされる可能性があることは従来の多孔式腹腔鏡下手術と変わりありません。
(従来の腹腔鏡手術と保険点数は変わらないので、患者さんの負担額も変わりありません)
新たな手技手法が開発されるたびに試行錯誤し、外科手術が進歩しています。
患者さんの安全を最優先にすることは当然であり、いかに傷を小さくし心理的・肉体的負担を軽減させるかが追求されている近年の傾向のなか、単孔式腹腔鏡手術は整容性に非常に優れ、負担も軽減されると考えます。
胆石症や繰り返す虫垂炎等で悩まれていらっしゃる方はどうぞご相談ください。