Column

病院長コラム

ワクチンのあるウィズコロナ社会

 今般の新型コロナウイルス感染症の流行は、今年の春にはとっくに収束しているだろうという当初の予想に反して、2回にわたる緊急事態宣言の効果も完全ではなく、また感染性の高い新たな変異株の出現も報告され、かつてのSARS等のように一時の流行と済ますことができない可能性が高くなってきています。「コロナ社会」あるいは「ウィズコロナ社会」の到来とさえ言われるようになりました。そしてこの1年で、人間の社会構造や価値観が大きく変化してきていることを誰しもが実感されていることでしょう。その中で新たな「マナー」というものも次々と築かれつつあります。社会生活を必須とする生き物である人間が、その社会の秩序を健全に維持するために必要な他人への気遣いや思いやりの規範をマナーと呼べると思いますが、このマナーはその時代時代の社会において、刻々と変化します。場合によっては、以前の常識が非常識となり、非常識が常識となることさえあります。この1年間でそれを端的に示すのは「マスクの着用」でしょう。当初、マスクは「自分から人への感染を予防するのには効果があるが、人から自分に感染するのには予防効果は一部しかない」とも言われ、自分が感染していない限り、着用に対する好き嫌いや個人の権利を主張して着用しない人も多数おられました。しかし、今では電車内などを見ますと、ほぼ100%の方がマスクを着用しています。もしも電車内で目の前の人がマスクなしでおられたとしたら、今や恐怖感すら感じるのではないでしょうか。つまり、マスクの着用は単に医学的な理由を超えて、相手に対するマナーとして捉えられる社会になったわけです。

 新型コロナウイルスに対するワクチンの接種が始まりました。まだ医療従事者を対象にしている段階ですが、これが国民に浸透するにつれて、ウィズコロナ社会も新たな様相になるものと思われます。つまり「ワクチンのあるウィズコロナ社会」とでも言うべきものが訪れることになるでしょう。そうするとワクチン接種が新たなマナーになっていく可能性があります。インフルエンザワクチンのように、変異株に応じて年々継続して受けるようになるかもしれませんし、受けたかどうかが何かをするために必要な社会的要件になるかもしれません。いまもしもワクチン接種を迷われている方がおられるなら、自分だけでなく、家族や職場や社会のためと考えるのも一つの目安になるかもしれません。もちろん、そのためにも、国やワクチン製造会社は常にその安全性を監視し、その結果を遅滞なく国民に知らせるべきでしょうし、一方でアレルギーなどの諸事情によりワクチンを打てない方々もいることも十分考慮した上で、「ワクチンのあるウィズコロナ社会」なるものを賢明に築いていく必要があると思います。

 当院ならびに医療法人社団博栄会の職員も、この数週間でワクチン接種を完了し、より安心安全な病院となることを確信しております。

2021年4月
赤羽中央総合病院・院長 廣 高史